Apr 01, 2017 絵本コラム

[絵本22]「任せる」って見守ること。

『はちうえは ぼくにまかせて』
ジーン・ジオン 著
マーガレット・ブロイ・グレアム 絵
もり ひさし 訳
ペンギン社

[絵本]ふくはなにからできてるの?3

強い風が続いたと思ったら、日差しの角度もわずかに高くなって
春らしい気候になってきました。
毎朝、わが家のベランダの草花たちに水をやるのですが
冬に葉が落ちた枝たちに、小さな小さなつぼみが宿り、
この季節には少しずつ膨らんできます。
毎年、それを楽しみにしています。

立ち枯れた植木たちと凍えて過ごした冬を乗り越えて
芽が出て花が咲くと、自分は水しかやっていませんが
なんだか、自分がとてもがんばったかのような錯覚に陥るのが楽しいんです。

草木を育てていると、学べることが多いです。
寒い間に見えないところで春の準備をしているところ。
逆境にいても、気づかないそぶりで空へ伸びているところ。
しなやかに風になびいているところ。
いつも、植物には元気をもらっている気がします。

さて、そんな緑が輝きを取り戻す4月。
おすすめする絵本はこれです。

[絵本]ふくはなにからできてるの?4

「はちうえは ぼくにまかせて」は70年代にアメリカで描かれた絵本。
表紙には、植物の本とにらめっこの少年と、たくさんの鉢植え。
覗いている猫、眠っている犬。
なんだか、楽しそうな予感がする本です。

[絵本]ふくはなにからできてるの?4

主人公の少年、トミーはある日、こう話します。
「ぼく、はちうえの せわを することにしたんだよ、ママ」

そして、気がつけば家の中に増えていくたくさんの鉢植え。
休暇で家を離れて、草花の世話ができない人々から
鉢植えを預かりはじめたみたいです。
ちゃっかりと、お金ももらっています。

日陰を好む植物、水をやりすぎてはダメな植物。
鉢植えの世話が得意なトミーは、しっかり面倒を見ていきます。
そして気がつけば、家じゅうが鉢植えだらけ。

[絵本]ふくはなにからできてるの?4

リビングも食卓もお風呂にまで、預かった鉢植えが増えて行きます。

増えすぎた鉢植えをどうするのか、
トミーの奮闘と、そして見守る両親。
意外な展開が最後に待っています。

やわらかい絵も、あちこちに表紙にいる犬と猫が隠れていて
眺めているだけでも楽しめます。

[絵本]ふくはなにからできてるの?4

この絵本は発売当時、日本では「アメリカらしい」と評されたようです。
確かにそうですよね。

許可もとらないで、植木を世話するバイトをはじめたトミーに
両親は叱ることもなく、そのゆくすえを黙って見守っています。
途中で苦言を呈しますが、それでも「困ったなぁ」という程度で
子どもの自尊心を傷つけたり、怒ったりはしません。
そしてまた、「ちょっと行き過ぎかな?」と気づいたトミーは、
自分で考えて、対処方法を実行して行きます。

「自己責任」と言葉でいうのは簡単ですが、
見守るのって難しいですよね。
その「見守る姿勢」が、本のなか全体にあふれていることが
じつはこの絵本のもう一つの魅力なのです。

そしてまた、そんな両親の想いをしっかりと受け止めたのか
最後までしっかり者としてふるまうトミーの聡明さ。
通常、よくできる子どもが出てくると、概ね憎たらしいもんですが(笑)
このトミーには、なぜだか惹かれるんですよね。
自分で決めていく人って、日常でもさわやかに見えたりしますけれど。
まさにトミーの、その責任感に惹かれるんだと思います。

[絵本]ふくはなにからできてるの?4

タイトルを改めて読むと「はちうえは ぼくに まかせて」の意味が変わって見えます。
読む前は「はちうえ」の話かと思いきや、
これはアメリカ流の「まかせる」を伝える本だったのです。

自分の意志で動けていない時、任せたいのにうまくできない時、
いつもと気分を変えたい時・・・
きっと心に響いてくる本じゃないかと思います。
皆さんの心に残る一冊でありますように。

Apr 01, 2017 絵本コラム