Jan 01, 2017 絵本コラム

[絵本19]できないことは、できること。

『なんにも できなかった とり』
刀根里衣 著
NHK出版

みなさま、あけましておめでとうございます。
久保です。
今年も、絵本コラムをどうぞよろしくお願いします。
さて、まっさらな2017年の始まり。

「今年をどんな年にしようかな」と考えた方も多いと思います。
年頭に、今年の抱負を考えた方も、そうでない方も、
「自分自身の可能性」を考える一冊として、
この絵本をご紹介します。

[絵本]なんにも できなかった とり1

タイトルは『なんにも できなかった とり』。
ふわふわっとした、やわらかい絵が印象的です。

この本の主人公は、表紙に写っていることり。
ことりは、ずっと悩み続けます。
それは何と生まれる時から。

「みんなは 自分でからを割れるのに、ぼくには 割れない」

そして、生まれた後も

「みんなは 木の実をとれるのに、ぼくには とれない」
「みんなは スイスイおよげるのに、ぼくには 泳げない」
・・・などなど、悩みはとまりません。

[絵本]なんにも できなかった とり2

何となく『みにくいあひるの子』を連想させますが、
あちらのお話しは、じつは鳥の種類が違っていたという
運命論的な結末ですよね。

でも、このお話しは、少し違います。
自分を嘆きつづけた「ことり」は、
この絵本の最後で、
自分にしかできないことを見つけます。

この最後のシーンが美しくて、けなげで、心にジーンときます。
額に入れて飾りたいぐらい、美しいシーンです。

ことりは、自分の考えと、がんばりで、その結末を迎えるのです。

[絵本]なんにも できなかった とり3

著者の刀根里衣さんは、現在はイタリアのミラノで活躍中の絵本作家。
世界各地から注目されている作家さんですが、
じつはそのスタートは、単身でイギリスに渡った日から始まります。

仕事も見つからず、英語もまだ話せないという苦しい日々のなかで
自作の絵を見てくれたイタリアの編集者に見いだされ
絵本作家としてデビューします。

賑わう異国の雑踏。
自分だけが行き場所のない世界で、戸惑い過ごすうちに
進むべき道をみつける。

そう、まるでこの絵本の「ことり」のようです。
著者は、自分の姿を「ことり」に投影したのかもしれません。

[絵本]なんにも できなかった とり4

表紙の帯に書かれている、吉本ばななさんのメッセージも印象的です。
「なんにもできないことの豊かさがキラキラあふれてくるようです」

「なんにもできない」って、普通は悪いイメージしかありません。
けれど、裏を返せば、まだまだいろんな可能性があるということ。
そこに気づくことで、自分の道が広がる・・ということですね。
そういえば「SEKAI NO OWARI」の曲にも、
そういう歌詞があった気がします。

さて「酉年」にも、新春にもピッタリなこの絵本。
新年のはじまりを迎える自分に、
今年新生活を迎える方へのギフトに、
『なんにも できなかった とり』が

新たな可能性を見つける「きっかけ」になるかもしれません。

Jan 01, 2017 絵本コラム